米大統領
ドナルド・トランプ氏
は12日の米朝首脳会談で、金正恩党委員長から
「完全な非核化」の約束
を引き出した。しかしそのかわり、北朝鮮の
人権問題
は無視して置き去りにしたと米国のメディアに批判されている。
ポンペオ米国務長官はこの指摘に関し、23日放映のMSNBCテレビのインタビューで、北朝鮮問題では非核化が米国の最優先課題であり、人権問題に本格的に対処するのは非核化実現後になるとの見通しを示した。
こうした無策ともいえるトランプ政権のロシアゲートの広がり阻止や中間選挙への対応を最優先する姿勢を見透かした金正恩氏にとっては、思惑通りの展開になった。
核兵器は、どのような形で非核化するにせよ、これまでの実験データを保有しており、経済発展が出きれば、生産力が向上した工業力を背景にして、その気になれば新たに作る余地は残ることになる。
ただ、恐怖政治で国を統治してきた北朝鮮にとっては人権問題は体制崩壊をさせる蜂の一刺しになりかねない。
国民の人権に配慮して恐怖政治を止めてしまったら、金正恩氏は権力を維持できない。
こうした共産主義国家の理想と現実の大きな落差を埋めるための粛清や言論統制など「自由」を奪うための仕組みが弱体化することになりかねないためだ。
北朝鮮の対韓国宣伝ウェブサイト
「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」
は24日、韓国の北朝鮮人権財団が朴槿恵前政権により残された「対決の残滓」であると指摘して、文政権に解体を要求した。
また、同様の性格を持つ週刊紙・統一新報もこの前日、同じ主張を掲げている。
韓国政府は北朝鮮の人権問題に消極的になっており、このまま北朝鮮の意のままに動く政権が言論統制を強める可能性が高まるだろう。
当然、軍事的な分野では情報は筒抜けになり、防衛システムに数多くの抜け穴が作られ、スパイ網が強化され工作員の活動が活発化して行くことになるだろう。
韓国国会で2016年3月に成立した北朝鮮人権法は、「北朝鮮の人権の実態を調査し、南北人権対話と人道的支援など北朝鮮の人権増進と関連した研究と政策立案」を目的に、北朝鮮人権財団を発足させることを定めている。
文在寅政権は、正式発足が遅れている北朝鮮人権財団の事務所の賃貸契約を、今月末で打ち切る方針を明らかにした。
表面的には財政的な問題が理由であると説明しているが、北朝鮮との対話維持のための
「いけにえ」とした疑惑
が拭えない状況にある。
北朝鮮軍の侵攻で虐殺が繰り返されたことなどを認識している一部世論から批判を浴びるや、文在寅政権は「今後も発足に努力する」とコメントして鎮静化を図ったが、北朝鮮側がこれにかぶせるように繰り出してきたのが対韓国メディアの主張だ。
そもそも、北朝鮮にとっては、米国が
人権理事会からの脱退
を表明したのも好都合なものとなっている。
同理事会は、北朝鮮の人権侵害追及の重要な場となっており、米国の役割はトランプ政権以前において大きかった。
特に、オバマ前政権の
サマンサ・パワー国連大使
は鋭い論調で、北朝鮮に置ける政治犯収容所の残虐性などを厳しく追及していた。
北朝鮮の目論見通りに動いている米韓の胡散臭い政権だが、金正恩氏が自分に向けられた人権問題をつぶす上で、残るターゲットは日本となっている。
これまで国連総会と国連人権理事会において10年以上にわたり、北朝鮮の人権侵害に対する非難決議が採択されている。
こうした決議案の共同提出者は欧州連合(EU)と日本という構図となっている。
国連総会での採択は毎年12月だが、今年はその時期が巡ってくる前に、北朝鮮は日本に対し
「日朝首脳会談」
を開きたければ止めておけと拉致問題で支持率のアップや加計学園等の問題から国民の目を逸らせたいいとがあるため、より前のめりに傾斜して拉致問題の解決を図ろうとする安倍政権の足元を見て、圧力をかけてくるだろう。
国益を考え、胡散臭い米韓両国政権との距離を図りつつ適度な距離感を持ったうえで、これとどのように渡り合うかが、安倍政権にとって当面の対北外交の課題と言える。